ちり・もや・かすみ

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真面目で普通な子ほど危ない男の魅力に憧れてしまう不思議 潜熱 1/野田 彩子

あまり漫画を買わない人間です。

本当は読みたい。良い作品なら何にでも触れたい。でもそのうちで漫画の優先順位が限りなく低い。

そんな中、久しぶりに漫画を4冊も買いました。漫画に詳しくないので、なるべく自分に合うといいなとどきどきしながら買ってしまいます。 結果的にどれもあたりで、たくさん得るものがありました。大好きです。 やっぱり漫画も定期的に読まなければ駄目ですね。

 

 

・「潜熱 1」 野田 彩子

こちらは完全に表紙に惹かれて購入しました。所謂ジャケ買いです。

表紙の主人公の目と、掴まれた顎、滲み出る色気と危うい雰囲気が最高に購買意欲をそそりました。

読んだ後だと、内容をそのまま1枚絵にしたような表紙だったことがわかります。綺麗な表紙としか言えない。

 

帯は「悪い人を、好きになりました。」

 

かわいくて推しに弱い流され体質の女子大学生が主人公、瑠璃。女子高育ちで、男に免疫はなく、むしろ苦手な方の女の子だ。

そんな瑠璃は、登場人物の客観的印象曰く「若くて黒髪で、華奢で気の弱そうな、処女くせえガキ」である。これはこのまま瑠璃が恋したヤクザ、逆瀬川さんの好みでもある。

このヤクザの逆瀬川さんが、本当に見事なくらい中年。漫画内で、主人公が恋する中年とあれば美化されるというか若めに描かれることも少なくないと思われるが、逆瀬川さんは見た目も言動もちゃんと中年なのである。イケメンなわけでもない。女子大学生からすると「オジサマ」と言っていい雰囲気のオヤジだ。

そんなオヤジの何がいいんだか、瑠璃は逆瀬川さんに惹かれてしまう。

いや、わかる。こういう世間知らずな普通の女の子が怪しい雰囲気の男に捕まったり、悪い人でも好きになったり。あるよね〜って思う。そういうのは本当によく出ている。 ただ、こういうもどかしい恋愛はえてして他人には理解できないもので、主人公が逆瀬川さんを好きになってしまうプロセスはわかるのだけど、なんで逆瀬川さん?という友人の言葉もまたよくわかるのだ。

 

しかし一話の雰囲気が最高に好きなので、瑠璃かあれでおちたというなら仕方ないという気がする。一話の雰囲気だけで言うと文句なく満点だ。 特に車に乗ってから以降のページ。大人の妖しい雰囲気に呑まれ、そちらに片足を踏み込んでしまった女子大学生の感情が、一コマ一コマ、はっきり書かれていない行間にもぎゅっと詰まっていて動悸が止まらない。

性格も意地も女癖も悪い男。既婚者で(と思いきや離婚は成立しているらしいが)、自分と同じ年齢の子供がいて、傷付いた自分を見て「そうしているとニコニコ笑ってるより綺麗だ」と平然と言う最悪な部分も持っている。

 

でも1巻の後半で瑠璃はどんどん「流される」方から「自分の意思で逆瀬川さんを選び取る」方へと心を動かしていく。その他の部分に関しては相変わらず周囲の強引さに負けてしまうが、「逆瀬川さんが好き」という気持ちだけは自分の方から示すのだ。

 

が、不安はある。逆瀬川さんの態度はどう見ても火遊びの域を出ないこと。特に今まで遊んできたことを仄めかされている描写からすると特にそう感じる。 その今までの相手と瑠璃の間に、逆瀬川さんの感情の面から見て隔たりがあるのかないのか。瑠璃の恋愛が独り善がりでなく「恋愛」に発展するのか否かは、逆瀬川さんが瑠璃をちゃんと好きになるかどうかにかかっているだろうこと。

 

この漫画、 ちょっと難があるとすれば逆瀬川さんのヤクザとしての身分がいまいちわからないことだ。上の方のエラい人って感じは周囲の環境からどことなく察することはできるが、具体性に欠ける。大物感も薄い。キレ方もヤクザというよりチンピラで、どこか歳不相応だということが気になって「怖い」という感情には直接結びつかなかった。

けれど展開にも人物の表情にもぐっとひきつけられる作品だ。次巻も是非追いたい。

 

 

潜熱 1 (ビッグコミックス)

潜熱 1 (ビッグコミックス)