ちり・もや・かすみ

は〜 来世来世

2017年下半期 選出5冊

今年の7月から12月までの半年間で、初読61冊の本を読みました。

一応内訳としては
7月 7冊
8月 7冊
9月 10冊
10月 11冊
11月 14冊
12月 12冊
の計61冊です。


近年で最もハイペースで読んだような気がします。この半年は大して冒険もしていないので、手堅く、面白い本を読めたと思います。





2017年下半期 選出5冊


例によって初読とはいえ今年出た本とか近年の本に限らないのですが、気にしないでください。
選んだ5冊はこちらです。

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・百年法(上下巻) 山田 宗樹
――「彼女のこと、かわいそうだとは思わなかった?」
〜「なんでかわいそうなの」
「もし百年法が施行されたら、死ななきゃならないから」
「それは、あたしらも同じでしょ」「百年経ったら死ぬ。あの女だけが特別に短いわけじゃない」


文庫版にて。
不老化措置を受けた国民は、措置後百年で死ななければならない。それが「百年法」。不老時代に突入し始めた日本で、措置後初めての「百年目」を迎えようとしていた。物語の序盤は、この法律の制定前の日本国を描いている。これがもう、人間の嫌なところを煮詰めたみたいな話で、かなりキツいんだけどすごく惹き込まれた。
とにかく話が面白かった。SF的に、ケチならいくらでもつけられるとは思うのだけれど、そんなのは置いておいても非常に読み応えがある。これ、勿体ないことに数年単位で積んでたんですよ……読まないまま自宅で放置してたんですよ……信じられない。早く読めばよかった。
遊佐の行く末がものすごく気になって一気読みしてしまった。明確に「主人公」という位置付けはないものの、物語の中盤付近でそれに相当する二人の動向が目立ち始めるんだけど、そのあたりが本当に好き。私は遊佐という人物がとにかく好きなので、上巻最後の遊佐と牛島の対峙シーンには衝撃を受けた。
結局「悪人」と言えるような悪人はどこにもいなくて、そんな大袈裟な肩書きで表現できるような存在なんてどこにもいなくて、みんなが生ないし死に怯えたり、仁義を外れてしまったり、保身に走ったりと、人間味溢れる弱さを持っていて。人間がすごく魅力的な小説だった。
下巻で一番好きなのは、このセリフ。
「あれと酒を酌み交わし、あのころのことを愉快に思い出しながら、残りの日々を過ごせたら、どれほど良かったか」
これに尽きる。




・笑うな 筒井 康隆
――「じつは、タイム・マシンを発明した」


ショートショートの名手といえば星新一だが、筒井康隆も名作を多く生み出していると思う。この作品集の最初の方、ポンポンリズムよく繰り出されるショートショートが特に大好きで、著者の引き出しの多さには感嘆するばかりである。
すごいですよ、一冊で34篇読めます。なんて贅沢なんだ。中でも印象的だった作品をいくつか。
『客』…自分を「お客さんです」とだけ紹介し、家に上がり込む人物。妙な名乗りにも関わらず、マックスハイテンションで歓迎する家族。社会風刺とコメディに落差がある。
『正義』…男にとっては人と争うことこそが幸福だったのか。現実世界でもよく見るが、何かを否定することに快感を見出し、何かを攻撃するために粗探しをしている人のようだ。そんな薄暗いのが楽しい人生か?ちょっと考えてしまった。
『セクション』…地層学博士のプレゼンのセクションとして、彼の妻の浮気話が挟まっている。これが最後には一つの話として成立するのが技だなあと思う。このネタの拾い方はすごい。タイトルのセクションもいいし、博士の研究が地層なのも内容にあってて、すこぶるセンスがいい。
『駝鳥』…一番心に残った。というか、一番怖かった。相手が何も言わないのをいいことに、図に乗って好き勝手やっちゃ、相応の報復はあるよなあという感じ。
『マイ・ホーム』…全てを手に入れるのは理想だけれど、人生のいいところはコツコツ生活を豊かにしていく、過程が備わっているところだろう。絶望感がよく現れていた。




・『俺俺』 星野 智幸
――俺は俺でいすぎた。「母」の息子の俺、母の息子の俺、俺ではない俺、俺ではない俺、俺としての俺、俺たち俺俺。俺でありすぎてしっちゃかめっちゃか、もう何が何だかわからない。電源オフだ、オフ。スイッチ切らないと壊れちまう。


マックのカウンターで隣になった奴が、俺のトレーの上に携帯電話を置いた。俺は立ち上がってからトレーの携帯電話の存在に気付くが、ついそのまま持ち帰ってしまう。携帯の持ち主である見知らぬ男相手にかかってきた電話に出て、男の母親を相手に出来心で俺俺詐欺を行った。それをきっかけに、「俺」がどんどん増殖していく。という話。
下手なホラーよりずっと怖い作品だった。まず表紙が怖いね。内容にとても合っているんですけど、本作装丁のための絵ではなく、美術館にあるようなれっきとした絵画らしい。これを描いた画家さんについてもネットで軽く調べてみたけど、経歴も何もかも簡単に言うと「やばい」。それについては、小説と関係ないのに言い出すと長くなりそうだから省きます。
妙な世界観の話ではあるけど、自己やら自我やらの揺らぎを的確に突いた表現が多いのが本書ならではの特徴。というか状況設定が奇抜すぎて、本書以外ではお目にかかれないであろう文章が大量に出てくる。自分とか自己とか、あたかもたった一人で成り立っているようなものが、実は他人がいてこそ成立しているんだというところとか。あんまり目をつけたことのない考えだったけど、すごく腑に落ちた気がする。
俺以外の者は信用ならないという思考に陥ったあとで、徐々に同じなのに同じじゃないことを受け入れられなくなっていく展開には、まあそうだろうなあと思った。自分のことを完全に理解する「私」が現れたら絶対友達になりたくないもんな。




・銃 中村 文則
――そして、私は拳銃を使っているのではないのだ、と思った。私が拳銃に使われているのであって、私は、拳銃を作動させるシステムの一部にすぎなかった。私は悲しく、そして、自分が始終拳銃に影響され続けていたことを、思った。


2017年、かねてから気になっていた教団Xをようやく読んだ。ちなみに、購入時にはまだ文庫化はされていなかったので、読んだのは単行本である。めちゃくちゃ分厚い。かさばる。結果として、まんまとハマったので、現在進行形で中村作品を読み漁る日々である。多作な作家は次々読む本があって困らない。ありがたい。
今のところ読んだ中村文則作品の中では「何もかも憂鬱な夜に」か本書かで迷ったのだが、構成が好きなので「銃」。……書いておいて未だに迷う。銃は展開が好きだけど、「何もかも憂鬱な夜に」は書いてある文章と作品に流れている空気感が大好きだ。
たまたま銃を手に入れた大学生。まずはそのフォルムを愛し、銃を持ったことに万能感を抱くようになる。撃つこともできるし、無理に撃たなくてもいい。彼は選択肢を手に入れたことに浮かれる。しかし徐々にいつ撃つか、どこで撃つか、誰を撃つかを延々と考え続けるようになっていく。当初あった「無理して撃たなくてもいい」という自由は、完全に「無理してでも撃たなきゃ」という思考に乗っ取られる。いつしか銃に操られていたことに気付き、彼は涙するのである。ラストシーンのシチュエーションと彼のセリフがすごい。言葉は本人なのに、完全に銃に操られている。このラストシーンに辿り着くために読んでいたのではないかと。そんなことを思った。
併録の『火』も迫力あってオススメです。
ところでこの作品、映画化されるらしい。まだ「去年の冬、君と別れ」とか「悪と仮面のルール」はわかったが、この小説を映像化しようと思った意図がわからない。拳銃を見つめ、拳銃に見惚れ、最初から最後まで脳内で自我が騒いでるような小説である。小説だから読みどころがあるようなものである。そういうストーリー、にしてしまうと絶対つまらない。つまらなそう。え、どうする気なんだろう。でもこのラストシーンは映えるだろうなあ。あれは映像で見たいな。




コンビニ人間 村田 沙耶香
――朝になれば、また私は店員になり、世界の歯車になれる。そのことだけが、私を正常な人間にしているのだった。


話の内容については向き不向きあるだろうが、芥川賞に関していえば納得の受賞といえるのではないか。大衆文学向けな直木賞以上に「これが受賞作?」と言われることの多い芥川賞だが、これがとらなきゃ何がとるんだと思うほどには本当に納得の受賞作だと思う。ファンの欲目抜きに。
いつもどおり独自の視点から物事を見ているし、主人公は相変わらず村田作品の世界に生きてるヒトだ。でも、世界観は普通の現代かな。まあコンビニ人間という作品では、その「普通」が曲者なんだけど。
主人公は昔から上手に「普通」を装えない・振る舞えない人間だった。彼女はみんなの感覚がわからない。共感に乏しいのだ。それがたまたまコンビニでバイトをはじめると、みるみる生活がいきいきしはじめた。コンビニにはマニュアルがある。がっちり決められたルールや枠があって、そこからはみ出さないことこそが求められる。主人公にとって、それが一番自分にあった、楽な生き方だったのだ。彼女の生活は、ようやく動き始めた。周囲も最初は喜んだ。けれど気付けば36歳。コンビニバイトは18年目、就職もせず、彼氏もいない。
主人公は確かに異物に近いかもしれないが、気持ち悪いほど「普通」を押し出してくる周囲に対して不快感が募る。仲間内で集まったとき未婚で未だにバイトを続ける主人公が爪弾きにされる展開があるが、「〇〇さんも未婚だけど、あれは仕事の都合だから〜」みたいな会話が一番嫌だった。妙齢の女で、かつ未婚であることにいちいち理由が必要な環境が嫌だ。
なんと言っても白羽のキャラがいい。俺はこいつらとは違うという謎の自信。これよりマイルドかもしれないけど、なんか時々いるよこういう人。プライドが高い割に実力もやる気も無く、責任転嫁を続けてきた男の成れの果て。口先の言い訳ばかり繰り返す彼と、彼の不満たらたらにやはり共感できない主人公。会話は笑えないような内容が多いのにコミカルで面白い。白羽は基本的に正しい現代の価値観を語る。世間と同じ価値観、「普通」がどういうものかを知っている白羽は、世の中にコンプレックスを持っている。
主人公がコンプレックスも引け目も焦りもないのは、世間と同じ価値観を認識出来ていないからなんだろうなと思う。別に、それはそれで悪くないと思うんだけど、世の中はそれを排除したがるんだよね。彼女は選択をして物語は終わるけど、彼女という異物と世間との戦いは終わらない。彼女がそれを戦いだと自認しているかは別にして。
というか、世間の普通ではないから、村田沙耶香も「未だにコンビニでアルバイトしている」って肩書きが一辺倒の個性みたいに語られるんだろう。皮肉にも。
面白かった。ちなみに、現在発行されている村田沙耶香の小説は、こちらの本を読了した時点で読破ということに。村田沙耶香って本当に変わった人だから、なかなか軽く人におすすめできない気がしてたけど、これが一番万人におすすめできるし、内容も面白いんじゃないかと思う。賞もとった上に売れたから名も知れただろうし。やーーー。好きだなー。
私は「しろいろの街の、その骨の体温の」がやっぱり一番好きなので、本作をいいなと思ってくれた一人でも多くの人に、読んで欲しいと思う。




以上5冊でした。
2017年充実してたなー。行きつけのカフェができて、カフェに行くと読書してしまう。どんどんおひとり様が上手になっていく……。楽しい……人生タノシイ。


あとあまりに内に籠って読んでばかりいるので、年末から読書会に参加するようになりました。進歩!色々発見あって面白いです。見ての通りフィクション小説ばかり読んでるので、絵本とかエッセイ、哲学書、自己啓発本、ビジネス本など飛び出して、己の狭さに愕然とする。
色々読んでみたい気持ちはあるんだけど、これでもまだ読みたいフィクション作品を100冊以上メモしてて、50冊以上の積読を抱えているので、それらが先かなって。やっぱり趣味だから、義務感にかられてやると駄目だよ。って思って。
そんな感じです。




今年は年間100冊以上読みたい。