ちり・もや・かすみ

は〜 来世来世

恋をすると、人はどうして涙を流すのか。 ルポルタージュ 1・2/売野 機子

 

挫・人間というバンドがたいへん気になっている。

 

‪というのも、私の好きなアイドルグループの口からよくその名前が飛び出すからで、どのエピソードもなんだかすごく変、の一言に尽きるので、ずっと引っ掛かりをおぼえていた。気になる存在として。

‪名前を出しちゃうと私の好きなアイドルグループってひめキュンフルーツ缶なんですけど、今年のはじめに出たアルバム内に彼らが提供した曲が一曲収録された。それが本当に痺れるほどよくってこんな名曲を書いてくれたことに感謝の言葉しかなくって、ロックも確かに感じつつかわいい成分も多分に含まれた曲で、大好きな一曲で、「どこかふざけた印象のあったバンドなのになんだよ最高じゃん」と思った。

‪その後でアルバムに曲を提供してくれたバンドのみなさんの個々のコメントを拝見した。アルバムコンセプトが各バンドからの楽曲提供で構成するミニアルバムであったので、その他のバンドの人たちからも、曲作成にあたっての想いとか、ライブで披露するにあたっての期待とか、いろいろとコメントが寄せられていた。

 

‪ひとつだけ毛色が違ったのが挫・人間だった。というか、テンションもおかしいし、なんだかんだでメンバー全員がコメントしている。笑った。

こちらで読めます。

彼らはこの他にも、某動画内コメントで「僕らひめキュンと仲良しですからね。逆に言うと僕らはひめキュンしか仲良くない」とか「初めて会ったときにはHPとかでチェックしてくれてて……俺たちの名前に興味を持ってくださってる!って。俺たちは彼女たちから名前を呼ばれて初めて人間になりました」とか言っている。挫・人間を人間にした女性、最早神みたいなものとのこと。何を言っているんだ。

 

‪私はおかしい人が好きなので、彼らのこと一気に好きになりました。わりとTwitterも監視してます。Twitterも真面目なんだかふざけてるんだかわからない。

 

‪中でもボーカルの下川くん(ってひめキュンが呼んでるから心の中ではそう呼んでるんですけど)は、音楽もそうだけどゲームとか本とか漫画とか、結構バンバンおすすめ垂れ流す方で、ときどき自分でも気になるものが紹介されていたりする。

‪こちらの漫画もそういう感じで気になって購入しました。というか、書店で見つけたら帯まで書いていて、ちょっとびっくり。

 

 

‪・「ルポルタージュ」 売野 機子

 

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‪1巻および2巻を読んだ。1巻を探している間に2巻の発売日が過ぎていたことが原因だが、この際購入時の経緯はどうでも良い。

‪舞台は2033年、近未来の日本。恋愛する者はマイノリティとなり、“飛ばし”結婚という、面倒事や痛みを伴わない男女のパートナーシップが一般化された世界である。

‪その象徴とも言える「非・恋愛コミューン」と呼ばれるシェアハウスが突如テロリストに襲撃され大勢の犠牲者が発生する。記者の青枝聖とその後輩の絵野沢理茗は、テロの犠牲者全員の人物ルポルタージュの作成を命じられ、事件を追うことになる。

 

‪こうして動き出す物語だ。

ちなみに青枝聖が1巻、絵野沢理茗が2巻の表紙をそれぞれ飾っている。

 

‪近未来を描いた作品に惹かれるのは、おそらく「まだ起こっていない」・「このままだと起こり得る」ことが展開されているからだと思う。読み手にとって自分の琴線に触れるリアリティが存在するからこそ。その世界のどこにリアリティを見出すかは千差万別であるとはいえ、読み手は自分なりのリアルに想いを馳せながらその作品に没頭する。

‪(近未来でなくとも、今とは歩みを変えた場合の日本だとか、今はない価値観を有した社会だとか、SFよりは現実味のある世界の話であるとする)

世界観を理解して、ようやくそこで生きる人々、登場人物に目を向けることができる。その環境で生きるということがどういうことなのか、恋をすることがどういうことなのか、友情は、家族の形は。その世界になったからこそ自然と形成される人間関係がある。世界が変わっているので、人間関係にも変化が訪れているのが自然だ。私は特にここで変容を見せる、人間関係に最も興味を抱いている。

‪いくら「関係」が変わったとしても、生きているのが人間であることは変わらない。その社会に、人間が人間としてどうかかわっているのか、考えるのが面白い。

‪私はそんな近未来を、登場人物という一種のサンプルを通して垣間見る瞬間がとても好きだ。ちょっとずるをしているような、なんというか自分だけ覗かせてもらっているような気分になったりもする。

 

‪恋愛をしない世界、しない方が当たり前の世界というと、最近で言うと、アニメ化し、実写映画化も決定している「恋と嘘」にも少し通じるものがある。

‪こちらは「ゆかり法」により満16歳以上の少年少女は自由恋愛が禁止となっている、国が「国民の遺伝子情報に基づいて決めた」最良の伴侶と恋愛をして結婚しなければならない、子作りから家庭を作ることを義務付けられた未来世界の話だ。決められた運命の相手と、本当に好きになってしまった初恋の相手、高校生の主人公はそのときどちらを選ぶのか?

 

恋と嘘については、主人公がまだ16歳というところがミソかなあと思う。しかも16歳になりたてなわけで、もう成人している身として持てる精一杯の感想は「子供じゃん」である。男子なので、現実世界においては結婚すらできない。初恋だの青春だのにうつつを抜かしていて当然の時期に、結婚を前提とした出会いをするわけで、揺れ動く彼の気持ちを責めることが出来ない一因がそこにあるなと思うのだ。しょうがないじゃん、初恋の女の子が気になっちゃうのも、運命の相手だよって言われた女の子を意識しちゃうのも。

 

 

‪それはそれとして、恋愛をする大人が珍しいものとなった世界を描くこの「ルポルタージュ」。こちらはもう完全に大人の恋愛を綴った作品なのだ。

‪マッチングサイトに登録し、性格や趣味、学歴、収入等を見て互いに「ちょうどいい」と思える相手を探してそのまま結婚してしまう飛ばし結婚。

 

‪ヒロインである聖の感情は、基本的にはこちらに見えないようになっている。ところどころで感情を文字として書かれることもあるし語り手を務めることもあるが、大抵の場面で、語り手は理茗だ。理茗は目鼻がぱっちりしていてとても愛らしい容姿をしていて、聖は重たげな瞼の印象的な、きれいな大人の女性。ベテラン記者でもある聖はいつでも冷静で、そのぶんミステリアスな雰囲気を有している。

 

‪――聖先輩 それは吊り橋効果とは違うものなのですか?

 

‪聖は、事件を追う中で、ひとりの男と出会ってしまうのだ。

‪テロを起こした犯人に支援を行っていたとされるNPO法人の代表、國村葉。

‪彼はなんと言ったらいいのか、主要人物として描かれる理茗・聖と並べるとちょっとぱっとしない見た目で、良くも悪くも普通の男といった雰囲気の人物である。かっこいいわけでもないし、ださいわけでもない。

 

‪聖と葉の目が合う。二人は互いのことを認識して。

‪その瞬間に理茗の意識を支配したのは、二人のかおりのことで。

 

‪このシーンは本当にすごかった。

 

‪葉は、現在作中では聖と共にたった二人だけ恋愛の最中にいる人物である。細かいことを言うと理茗と理茗の母親のことはちょっと考えどころだが、一旦除外。

‪たった二人、恋する眼差しを持った彼らは、互いを見る瞳がとても美しい。冴えない印象さえある葉だが、その姿はかわいいし非情に魅力的な姿として映る。また、ミステリアスさを持っていた聖も、自分の想いに翻弄されるようになる。1巻ラストの彼女は、見るたびに胸が痛くなる。

‪このようなご時世に生きる人々だけあって、歳は重ねても恋愛経験は豊富ではないらしい描写が散見する。本能だけで動いて、気付いたらもう動き出していて、「なんなんだろう、これ」なんて言ったり、どうなりたい・どうしたいを考えていたり。

‪大人の恋愛だけどどこか初々しく、初々しいのに「大人」だからこの先の未来の関係まで考えていかなくてはならない。直接語られるわけではないが、なんとなく察するシーンはいくつかある。葉の同僚の女性が「やっぱ私達みたいな結婚適齢期が恋愛をしていたらバカみたいな雰囲気があるじゃないですか」と言うシーンがあるが、これはまさにそういう社会を何気なく説明されているのかなと思う。

‪この話がどう着地するのか、聖と葉はこの先どこへ向かっていくのか。続きがとても気になる。

 

‪3巻は11月発売だそうだが、とりあえず今は理茗の恋愛感情の行方が最も気になるところだ。

‪1巻でも2巻でも、彼らの恋愛と並行して人物ルポルタージュはしっかり綴られている。

‪ちゃんとパートナーを見つけて、生活を築いていく。その中に恋愛感情は不要で、「そんなものはいい歳して持っているべきじゃないぞ」と言われるような世界。

‪けれど、物語の主軸としてのルポルタージュから見えてくるのは、周囲の人々の愛情であった。そういう社会なのかもしれないけど、ちゃんと愛はある。2巻の恋愛ドラマの女王だった脚本家の話がとても好きだった。

‪買ってよかった。おすすめです。下川くんありがとう。

‪挫・人間のCDもこれを機に購入することをここに宣言します。

 

 

 

 

 

ルポルタージュ  (2) (バーズコミックス)

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